ご意見をいただければ幸いです。
私の情報整理術:創造につながる情報整理
若輩者の私がこの連載の一回分を執筆する機会をいただいたのは,おそらく,メモソフトの「紙copi」(以下,「紙」と略す)を公開していたからだ ろう.「紙」とはWindows用のフリーソフトで,名前の通り紙のような使い勝手を目指したソフトである.今回は,整理術を紹介せよとのことなので,私 自身がこの「紙」をどのように使っているか紹介しよう.「紙」の設計思想についても述べてみたい.メモツールを活用するときの参考にしていただければ幸い である.
思考を妨げないツール
メモツール「紙」の最大の特徴は,明示的に保存操作を行わなくても,内容が更新されるたびにハードディスクに自動的に保存する機能を持っている点にある. 現在普及している一般のソフトウェアだと,編集中のデータはメモリ上に展開され,「保存」というコマンドを選択するまでハードディスクに保存されない.ま た,保存するフォルダを選ばなければならない.途中でPCがクラッシュしてしまったら,データは戻ってこないのだ.これではおちおち文章も書けない.この 事故を防ぐために,文書の作成を開始したらすぐにどこかに保存し,その後は保存コマンドのショートカットキーを頻繁に押している方も多いのではあるまい か.しかし,この作業は非生産的だ.「紙」では保存場所は書く前に「箱」を選ぶだけで選択でき,内容は自動保存されるので,終了時に「保存しますか」とい うメッセージに答えるという煩わしい思いをしなくてすむ.
このシステムを使うと,すぐにメモを書き始めることができるだけでなく,すぐに終われる.すぐに終われるから,書き始めるときも気負いしない.本来の紙の使い勝手に近く,慣れてしまうと従来のシステムには戻りがたい.
文章を書くためのデザイン
私の場合,新たに文章を書きはじめる作業は,人から書けと言われても直ちに始められるものではなく,それなりの準備と心構えがいる.つまり,「文章を書く モード」に心のスイッチを切り替えないと取りかかれないのだ.ということは,その感情を受け入れるツールも,それなりのデザインが要求される.邪念を払 い,文章を書くことに一心不乱に集中できるようなデザインが求められていると思うのである.集中のために必要なデザインとはなにか? それは,異空間の演 出とシンプルなデザインだと思う.図1の「紙」の画面を見ていただくと分かるが,左に「箱」と呼ばれる文章を束ねて整理する入れ物があり,中央に編集画面 がある.紙面では分からないが編集画面は独特の色合いをしている.またツールボタンの類はほとんどない.賛否両論あるものの,私は「紙」を立ち上げるたび に,このデザインを見て他のソフトウェアとは違う雰囲気を感じ,「さあメモを書くぞ」という気持ちになる.いかがだろうか?
図1 メモソフト「紙 copi」
発散と収束をバランスよく
思考の発散というのは,関連する物事を連鎖的に思い浮かべ,与えられた思考の枠にとらわれず新しいアイデアを想起していく作業のことである.思考の収束と いうのはその逆で,与えられた材料を整理し,一つのアイデアへとまとめていく作業のことである.人には発散思考の人と収束思考の人がいるように,思考には 発散と収束の両方の側面があると思う.メモを活用するには,発散と収束の性質を知り,今どちらを行っているのか意識しながら取り組むと効果的だと思われる.
発散と収束のための方法論は数多くあるが,それらをコンピュータのソフトウェアとして実装したものでは,まだこれといった成果をあげているものはないよう だ.その理由は定かではないが,思考やメモの取り方に一定のルールを設けるアプローチは,現実世界においても制約が多くなりがちで,それをコンピュータ上 で実装するとますます制約が多くなり,使いづらいものになるからだと推測される.以下に,いくつかの例をあげる.
*FreeMind
FreeMindはMindMapを扱うためのフリーソフトだ.最近流行のMindMapは,発散のためのツールだろう.一つの根から派生する関連情報を次々と枝葉に書き込むことができる.しかし,収束には向いていないと私は考えている.
*KamiWiki
KamiWikiでは,管理しているページのタイトルが他のページの文中に出てきた場合,自動的にタイトルにリンクを張る機能を持っている.自分のメモ同士が自動的に関連づけられ,ユーザーの発散思考を支援する(図2).
図2 KamiWiki
発散と収束の両方ができるツールが望ましいが,現状ではそういったツールは見かけられない.「紙」は,Webブラウザから見ているページをローカル に取り込む機能をもっている.取り込んだページと自分のメモを同じインタフェースで扱えるので,それらを元に一つの文章に収束することがスムーズにできる ようになっている.しかし,まだ収束のための積極的な支援ができるまでには至っておらず,さらなる工夫が必要だと感じている.
「紙」で論文を書いてみよう
私事になるが,先日WISS 2005という学会があり,そこで「縁人」というシステムについて発表をした.このような場に論文を投稿したのは私にとって初めてのことである.この論文 を書くにあたって私が実際に「紙」をどのように活用したかを紹介して,このコラムをしめくくりたい.なお,「紙」はフリーソフトとして公開しているので, ダウンロードして使っていただけると幸いである.
図3では,Webから論文に関連する資料をドラッグ&ドロップで「縁人」という箱に保存している.図4の左では,書きためたプログラムの仕様のメモなどが 同じ「縁人」という箱の中に保存されている.右には,プログラムの開発時のメモを開いている.論文には採用しなかったものの,残しておきたいメモなども同 じ箱の中の別の紙に書き留めている.これらのファイルもすぐに参照できる.図5は,論文の本文を書いているところである.マーカ機能を利用し,強調すべき 箇所に色を塗ることができる.また,「しおり」を作ることで,画面の自由な位置に該当ファイルへのショートカットのボタンを配置できる.論文の本文と関連 資料に関するしおりをならべて表示し,これらをクリックすることで本文と関連資料を行ったり来たりしながら,本文を肉付けしていく.
論文の執筆は,頻繁に自分のメモや他の文献を参照しながら,本文をまとめていく作業の連続である.今回の論文は,自動保存機能や,Webの取り込み機能, しおり機能を駆使してなんとか完成させることができた.しかし,それでも不便だと感じたことがある.それは,関連する文書間のリンク関係が簡単に指定でき ない点である.文書間のリンクについては,前述したKamiWikiが優れている.KamiWiki的な機能を「紙」につけると,もっと便利になるのでは ないか.今後とも改良の道を模索していきたい.
図3 Webからの取り込み
図4 関連資料と箱の一覧
図5 本文と関連資料のしおり
参考URL
紙 copi
http://rakusai.org/
FreeMind
http://freemind.sourceforge.net/wiki/
KamiWiki
http://rakusai.org/kamiwiki/
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