紙copiの開発と公開は1999年。今年で10年目になる。「自動保存」と「ブラウザからコンテンツをつかんでドラッグすると取り込める」機能が売りのスクラップブックソフトである。
またインターフェースが非常に細かい点まで作り込まれているため、一旦自分のメモを紙copiにとりはじめると、それ以上の使い勝手がないかぎり他のプロダクトには乗り換えない。例えば、Outlook Expressのようにメジャーな管理アプリに「メモ機能」がついているものは少なくない。しかし、紙copiの手軽さには及ばないため、乗り換えるユーザーはすくないと思われる。
2003年にMicrosoftのOne Noteが発売され競合となったが、使われているという話を聞かない。その後GoogleからGoogle Notebookが無料公開されたが、一旦公開中止となった。One Noteはメモ帳というわりには複雑すぎ、Google Notebookは、ブラウザのプラグインだったため、メモを取るには非力だったことが敗因と思われる。
2008よりEvernoteが、メモに特化したアプリを公開。これが紙copiとコンセプトも機能も近く、強力な競合となっている。
しかし、直接の競合アプリが2008年のEvernoteまでなかったことは紙copiにとって幸運であった。その間、日本市場においてはマーケティングの努力なくシェアを拡大した。
紙copiの成功要因分析
1. 作りこみ
紙copiの特徴の一つは完成度の高さにある。「メモを取る」という単一機能を徹底的に作り込んでいる。主要な機能は洛西が高校2年〜大学1年の3年間でつくったものである。この間、有料化を一度試み、時期尚早と判断して無料に転換、その後はひたすら機能をブラッシュアップすることに専念したことがこの結果を生んだと考える。また高機能化の道を歩まず、機能を追加するたびに以前の機能をけずり、シンプルさを維持してきた。シンプルで高速なことが製品のアドバンテージであり、そこからは逸脱しなかった。
2002年(大学2年)に再び有料化(無料バージョンと有料バージョンの両方を公開)、このときはすでに雑誌等で頻繁に紹介されユーザーがついていたため当初から順調に売り上げを伸ばした。
2. ニッチ
主要プレイヤー(MS, Google)も参入したとはいえ、彼らの本気度は、それほど高いとはいえない。おそらくこの市場がニッチであるためだと思われる。ニッチであるため10年間ブルーオーシャンを歩んで来たといえる。
3. 乗り換え障壁
アプリの特性上乗り換え障壁が高い。日常生活において「メモ」というと、乗り換え障壁はなさそうだが、PC上における「文書作成=エディタ」は使い勝手が重要で、乗り換え障壁が高い部類のアプリケーションになる。またエディタにはない機能として、データ蓄積機能があるため、この点が乗り換え障壁をより高くしている。また継続的に利用するアプリであり、時代がかわっても需要が安定している。
4. テキストファイル
紙copiは、データの保存形式としてディレクトリとテキストデータを利用している。それぞれを「箱」「紙」という日本風の名称をつけているが、独自のバイナリやデータベース等を利用していないため、可搬性、スケーラビリティが高い。たとえばデスクトップ全文検索エンジンのようなものが登場しても、ユーザーは設定なしに紙copiのデータを検索できる。USBメモリにいれてどこでも持ち運ぶことができ、どんなOSからでも(「メモ帳」などを使って)データの閲覧と編集が可能である。開発当初はこれらの技術はなかったが、テキストファイルを採用したためシームレスに対応できた。
5. ノートパソコンの普及
デスクトップパソコンに変わって、ノートパソコンが広く普及したことも紙copiの普及の要因の一つだろう。メモは、気軽に取るものであり、会議室や移動中などに取ることが多い。この用途のためには、軽量でバッテリーが長持ちする携帯性の高いノートパソコンが向いている。ノートパソコンはデスクトップパソコンに比べて非力であるが、紙copiは軽快に動作するためノートパソコンに適したアプリケーションだった。ノートパソコンは、近年、ネットブックやスマートフォンに見られるようにますます小型化の一途をたどっており、今後も紙copiのように使い勝手がよく、軽快なソフトウェアが必要とされると考えられる。
ビジネスモデル
2002年、最初の購入システムは洛西が構築。氏名と住所とメールアドレス等をウェブフォームに入力すると、住所に対してシリアル番号と請求書を郵送するというものだった。
価格は1000円〜3000円の変動式。利用頻度や紙copiへの愛情度などをアンケートで選んで回答すると値段が決定されるという仕組みだった。この方式は誤解されることも多かったが、多くの人が2000円、3000円を支払い、機械的でないところが好感を生んだと思われる。サポートはフリーの頃より協力してくれたみけさんに頼んだ。一度も顔を合わせることなく契約をした。
2002年にユミルリンクに販売とサポートを委託。2500円で販売を開始。
2005年にジャストシステムよりOEM版「ネタの種」の販売を開始。
2005年より開発メンテもユミルリンクに委託。
ユミルリンクが英語版の開発を試みるも中断(継続中)。
2008年末より洛西が開発ディレクションに参画。
現在はユーザー数約20万人。
紙copiのビジネス的弱点
1.
一度買ったらバージョンアップが無料であるビジネスモデル。これはシェアウェア系のソフトによく見られるが、バージョンアップのたびに料金を取る商品にくらべると売り上げが小さい。需要に対して100%売り切ってしまうと、利益がなくなる。
2.
Windowsに依存している。細かい作りこみをすればするほどそのOSに深く依存することになる。Windowsの時代があとどれほど続くかはわからない。この問題に関しては、現在紙copi Netにより対応プラットフォームを広げている。
0 件のコメント:
コメントを投稿